転倒事故の発生とその影響

施設内の転倒事故は、利用者の怪我だけでなく、施設の管理責任を問われる法的リスクや信頼性の低下につながります。特に、足腰の弱い高齢者や障がい者にとって、滑りやすい床は大きな危険因子となります。多くの施設では、清掃や雨天時の水濡れ、あるいは厨房などでの油分により、床が一時的に滑りやすくなるおそれがあります。防滑対策を施すことは、これらのリスクを軽減し、すべての利用者が安心して移動できる環境を整えるうえで非常に重要です。

法令・基準対応とCSR値

高齢者や障がい者の円滑な移動を目的としたバリアフリー法の趣旨では、床の滑り抵抗係数（CSR）が重要な指標です。関連する基準・指針では、用途に応じたCSR値の目安が示されており、これを満たすよう配慮することが施設管理者に求められます。防滑塗装は、既存の床材のCSR値を高める有効な施工方法の一つです。公的な基準に適合する施工を行うことで、施設の安全性が客観的に証明され、安心して運営できることにもつながります。

防滑工法の主な種類

防滑塗装の種類は、大きく分けて溶剤による工法とコーティングによる工法に分かれます。

溶剤による工法

床材の表面に目には見えない微細な穴を開けることで、摩擦抵抗を高める工法です。既存の景観をほとんど変えずに防滑効果を得たい場合に適しています。

コーティングによる工法

特殊な骨材を含む樹脂を塗布し、床表面に物理的な凹凸を作る工法です。高い防滑性能を求める場所や、ペットの足にも優しい床にしたい場合に適しています。

場所や床材に応じた工法の選び方

施設の場所や床材によって、最適な工法はさまざまです。例えば、タイルや石材の床には、溶剤による工法が効果的です。一方、コンクリートや木材の床には、コーティングによる工法が適していることが多くあります。また、出入り口やスロープなど特に滑りやすい場所には、より高いCSR値を得られる工法を選ぶとよいでしょう。施設の用途や利用者の動線を考慮して、最適な種類と工法を包括的に検討することが大切です。

施工に向けた準備の進め方

防滑塗装の施工を依頼する際は、まず現地の状況を確認してもらうことから始めます。床材の種類や劣化の度合い、滑りやすい場所などを正確に伝えることが重要です。

ステップ1：現状確認と相談

まず、施設のどこが滑りやすいと感じるのか、転倒リスクが高い場所はどこかをリストアップします。そして、専門の業者に現状を確認してもらい、床材の種類や劣化状況に合わせた最適な施工方法について相談します。

ステップ2：見積もり依頼と工法の明確化

次に、塗装業者に見積もりを依頼し、費用だけでなく、どのような工法が適用されるのか、その工法が施設の床材や用途に適しているかを確認します。予算や施工後の見た目など、具体的な希望を明確に伝えておくことが大切です。

ステップ3：利用者の安全確保と周知の準備

施工中は、一時的に床が使用できなくなることがあります。利用者の動線を確保するために、通行止めが必要な場所と時間を把握し、事前に周知する準備をします。また、作業中のニオイや騒音についても確認しておくとよいでしょう。

施工中の通行制限とニオイ・騒音対策

防滑塗装の施工中は、一時的に床が使用できなくなることがあります。短時間で硬化する特殊なUVコーティング工法などであれば、通行止め時間を最小限に抑えられます。また、水溶性溶剤や無溶剤の材料を使用する工法であれば、作業中の不快なニオイや騒音を抑えることが可能です。施設利用者のストレスを最小限にするためにも、これらの点を事前に確認しておくことが重要です。スムーズな施工は、その後の利用者の安全にもつながります。